清水信次の日本大改造(私案)

列島改造論を読んだ直後に古本屋で見かけて、思わず手に取ってみた本。

国粋主義者による、ロジック破綻系の想いを書き連ねている本かと思い、中古本屋でぱらっとめくって閉じようかと思ったが、地味に面白くて買って帰ってしまった一冊。

書籍名:『清水信次の日本大改造(私案)』
著者名:清水信次
出版日:1995年7月
出版社:騎虎書房
評価:★★★★☆

著者の清水氏は、太平洋戦争敗戦後の瓦礫の山から、並々ならぬ馬力で、ライフコーポレーションを日本一のスーパーマーケットに育て上げた。

同氏は単にスーパーを大きくした起業家のおじいさんではない。日本にスーパーマーケット・チェーンストアという概念すら存在しなかった時代に(八百屋・魚屋が人々の台所だった時代に)、アメリカに学び日本にチェーンストアの概念を導入し、確立していった起業家である。即ち、日本の生活そのものを豊かにした立役者の一人。そんな偉人が言いたい放題に書いたのが本書である。

まずもって、その辺を歩いている一般ピープルの中に、日本大改造(私案)を持っている人がどれほどいるだろうか。この国の未来を憂い、伝えたい想いが本書には余すことなく記されている。同氏に幾度かお会いした事が有るが、いつも日本の敗戦とそこから復興してきた話をされる。

組織がひとたび誤った方向に走れば、どのような結末を迎えるか、そのプロセスを実体験として持っている人だからこそ、その時代を振り返り、同じ過ちを犯してはならないと強く思い、正しい未来を願うのだろう。

戦地に赴いた同僚が死に、爆撃で街が焼野原となった光景が脳裏に焼き付き離れないからこそ、その時代の事をいつも振り返るのである。

本書には様々な本質が述べられている。例えば、自衛隊はその存在そのものが曖昧に定義されているから動きづらく、再定義した上であらゆる危機に対応する組織にすべき、等の意見が正にそれである。

企業もそうだが、組織は目標を定め、行動要件を定義づけし、人と金を投入する事で、有るべき方向に走っていく。その前提が曖昧な存在が、国防を担っているという事自体が異常事態といえる。

恐らく、本書を戦後の自虐史観に育った子供達が読むと、「右翼的」「危険思想」と感じるかもしれない。文末には参考資料として『教育勅語』『軍人勅諭』が載っており、漢字がいっぱいで読み方も分からない昭和な雰囲気。ただそれだけでも宗教的、軍国主義などと感じるかもしれない。

これは個人的な考えだが、戦争=悪、危険、考えてはいけないもの、というのが戦後日本の教育であり発想法だったと思う。確かに、米国の庇護のもと周辺諸国が発展途上な環境においては、そういう発想で自衛隊を着実に拡充していけば大丈夫だったのだろう。

ただ、これからは中国が世界最大の経済大国になり、それはすなわち軍事大国になるという事でもある。一党独裁体制の綻びを解消する手っ取り早い策は、外に目を向けさせることであり、人民の共通の敵を作る事。先の大戦で攻め込んできた日本は、その良い対象であって、まさにこの数年のうちに中国からの軍事的な圧力が強まることは間違いない。

この外的要因に加え、内に目を向ければ阪神淡路大震災、オウムのテロ、東日本大震災と原発事故、等立て続けに起こる危機に即応する組織を確立する事が何より重要であろう。それを達せられるのは準軍事組織である自衛隊以外に居ない。

自衛隊には年間5兆円近い血税が費やされている。その組織にムダやムリが有る事は、換言すればそのムダ・ムリの中に税金の浪費が発生している事に他ならず、あまりにももったいない。

お金をかけるからには、その費用以上の働きをしてしかるべきであり、今それが出来ていないのは、組織の設計・定義づけの段階で不備があるからである。通常の民間企業であれば、このように非合理且つ巨大な存在は許されるはずもない。自衛隊は言わば戦後レジームが生み出した、日本のひずみともいえるだろう。

同氏の言わんとしている事もこれに近い。危機管理が組織として何より重要と繰り返し説いており、その方法迄踏み込んでいる。例えば、徴兵制と介護制を同時施行し、若者は選べるようにすべし!といった意見が正にその具体論である。

分かりやすい言葉で本質を説いた本書は、国の事を考えずぼーっと過ごしているサラリーマンに、ふと自分の所属する組織は会社だけでなく、日本なのだという事を気づかせてくれる名著である。


この記事を書いた人
りーぶら
りーぶら30代、都内在住、男性。

大企業に勤務するサラリーマンで、M&Aを手がけたり、世界を飛び回ったりしている。ぬるま湯に浸かって、飼い慣らされているサラリーマンが大嫌い。会社と契約関係にあるプロとしての自覚を持ち、日々ハイパフォーマンスの極みを目指している。歴史を学ぶことは未来を知ること、を掲げてしばしば世界を旅している。最近は独立して生きる力を身に付けるべく、資産運用に精を出している。好きな言葉 「人生の本舞台は常に将来に在り」

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