自衛隊の存在

2018年1月20日日本の論点

以下は私が10年ほど前に書いた文章である。

昨今、田母神氏の論文が問題となり、防衛省が揺れている。論文の中で、日本は侵略国家ではないとの主張をし、国会招致まで行われる事となった。本人からの謝罪の弁はなしと言う状況。

まず、この事件の問題点は、そもそも田母神氏が航空幕僚長という武官トップの立場にありながら、自らの思想を語り論文を出したことに問題があるだろう。軍隊という強大な権力を保持しながらも民主主義を維持するというのがシビリアンコントロールの目的。そこにおいて、武官の発言は控えるべきものであろうし、武官は軍事の専門家に徹するべきだろう。

同氏の論文の内容に関し、ネット上にPDFが配布されているため一読してみた。客観的事実の乏しい、論文というには遠い文章に思えた。学生の卒業論文レベルだろう。内容は日本は戦争に巻き込まれたわけで、全ての戦争に関しても相手国の了承を受けて戦争したため侵略ではないとのことだった。

侵略したかどうか、それは攻撃された国にしてみれば確実に侵略だろうし、攻撃したほうにしてみれば、自国を防衛するために絶対必要だった正当な戦争と言う事になる。日本の戦争が侵略だったかどうかに、重点を置くことはあまり意味がない気がする。

歴史を語ると言う事。それは過去を断罪するためにあるものでもなければ、正当化するためにあるものでもない。今後の歴史をより良くして行く為に存在すべきなのが歴史。そうでなければ、歴史などクソ食らえとなる。

今、日本で語られる、過去の日本の戦争は仕方なかった、いいや悪かったなどという善悪での判断は実に愚かしいもの。時代が流れるに連れてその判断基準は変わっていき、良いも悪いもないからだ。

1600年ごろから、海外列強は次々と植民地を作り各地を収奪していった。現地の人間を奴隷としてアメリカに連れて行く事もごく当たり前に行われた。

第二次世界大戦が始まるまで、列強は世界のあらゆる土地に自国の旗を立て、自国の経済に取り込んで、覇を争っていた。各国が生き残りをかけて軍備拡張し、経済拡大のために植民地から収奪していった。と同時に植民地を育て、自国をより富ませようとしてきた。

この流れは、当時何の不思議も無く、ごく自然に受け止められてきた事だろう。特に1600年代、海外に進出していく事は経済を豊かにする以外のなにものでもなく、未開の土地を切り開き、そこに住む野蛮人は殺すか奴隷にするかぐらいの感覚だったんだろう。

インターネットもない時代、また人道や人権についてもあまり考えが及ばない時代。当然の流れだと思う。わけのわからない奴らは征服して、とりあえず支配下に置いて、自分たちが良い暮らしをすると共に、隣に住んでいる奴らから攻められないように軍備を増強する。至極当然の事じゃないか。

ただ、これを現在の価値観から見てみればとんでもない事だと思える。人非人、極悪非道の行いに等しい。しかし、これは当時では当然のことだった。この植民地支配、帝国主義全盛の時代が19世紀の終わりまで続いた。イギリスは大英帝国として世界に名を馳せた。

そして20世紀、列強が覇を争った帝国主義が一大衝突を起こした。これが第一次世界大戦だろう。もちろん、普仏戦争だとか、サラエボ事件だとか、バルカン半島だとかありとあらゆる要因があるが、歴史を大きく眺めてみるならば、それは帝国主義の衝突であったと言えるだろう。各国がとった拡張主義、それに伴う軍備拡大による衝突。実に分かりやすい。

その後、約20年のときを経て、第二次世界大戦が起こる。これは、貧しい帝国主義の国VS富める帝国主義の国の戦いだった。各国は、軍拡による反省から国際連盟などを設立したが、経済は各植民地を取り込んでのブロック経済体制を敷いた。

これにより、貧しい列強が爆発。世界中の国を巻き込んで第二次世界大戦へと突入していく。日本もその貧しい列強の一つとして、勝ち得ない戦いへと足を踏み入れていった。引きずりこまれたと言えばそうだし、無謀にも突っ込んでいったと言えばそれもまた正しいだろう。それがどちらかだったという事を議論するのは建設的ではない。

第二次大戦後、多くの国が独立していった。白人にも黄色人が白人に勝てると分かったのだ。列強は戦争により一度は放棄した植民地を取り戻そうと動くが、各地で独立の気運が高揚し、コストとリターンの観点から、もはや植民地経営が成り立たない状況になっていった。そして、列強が植民地を次々と放棄していく。

こうして、帝国主義が終わりを告げる。まさに、先の両対戦は、世界の帝国主義という拡張し続ける限り有限な地球においていつか終焉の時が来る、それを具現化した戦いであると言える。帝国主義が終焉した後、世界は二大国と核兵器、資本主義と共産主義の対立時代である冷戦へと突入。それも崩壊し、世界各地域が勃興していく現代へと歴史は流れていく。。。

大戦において、日本が侵略したから云々というのは、もはや聞き飽きた内容でもある。上述の通り、第二次世界大戦は、帝国主義の覇権争いのもと、起こるべくして起こり、その責は誰に帰せられるものでもない。当時には当時の事情があり、その事情の中で各国が生き残りをかけて戦わねばならない状況が生まれた。それにより多くの人たちが死んだ。それが世界大戦。そういうことだろう。

世界の歴史を世界規模で捉え、どのような流れの中でなぜこのような事態が起こったか、と言う事を把握した後に、だからこそすべき事は何かを考えるべきだろう。当時の日本周辺で起こっていた事件ももちろん歴史を語る上で重要な要素ではあるが、世界全体の歴史を鑑みた上で先の大戦も理解する必要があるだろう。

田母神氏の論文の要旨だけ見ると、視野が狭窄になり、民族主義的に日本の自虐史観を非難しているような印象を受ける。具体的に実証された証拠が乏しい中、日本は悪くなかったと言っても説得力があまりない。テーマを一つに絞って、掘り下げていったほうが良かったのではと思う。

同氏の論文の日本は自虐史観を持っているという部分は疑い得ない。確かに、日本はかつての歴史を蔑む教育を行っている。もしくは行ってきた。少なくとも小学校の教科書を見ると、日本は悪い事をしました、はい終わり。という感じの記述になっている。今の自衛隊は、その自虐史観の元、あってはならない存在としてある軍隊であり、国を守る存在が国民から疎まれる状況にもなっている。

その自衛隊という組織に所属してきたからこそ、不器用ながらもこの論文を発表したのだろう。国防にかける思いが真摯であればあるほどに、自衛隊のあり方に大いに疑問を持ち変革を望むのだろう。

しかし、狭窄な視点からの日本軍の再興は危険な考えだろう。単に、日本は悪い事をしていないとか、侵略してないから、日本は誇りを持つべき、軍隊を復活させるべきというのはただの民族主義。この民族主義は自民族が他民族に優越するという考えに陥りやすく、というより前提と言えるほどであるため、必ず他の民族と対立する事になり、戦争の芽を生む。そしてまた、民族主義は他民族の抹殺といった悲劇も生んだ。

だからこそ、広く歴史と世界を見て狭窄な視野にならないように物事を考える必要がある。帝国主義の時代が終わり、冷戦の時代が終わり、アメリカ一強の時代が始まった。経済もアメリカの独壇場。20世紀後半はまさにアメリカの時代だった。それが今少しずつ変わり始めている。

新興国が精力を増し、日本の隣には中国が控える。歴史的に見れば、アジアは中国を中心とした冊封体制をしき続けてきた。中国は世界の中心で、その周りにある属国。という考え方だった。恐らく今後、自然な成り行きとして、中国は再びアジアを代表する国になる。経済も軍事も、アジアのトップに立ち世界の大国として君臨するだろう。

その時、アメリカ一強の時代から、アジアでの中国の台頭、そして国家連合であるヨーロッパユニオン。成長し続けるロシア。これらの大国が経済で鎬を削る事になるだろう。かつてアメリカの庇護下でいればよかった自衛隊のあり方も問い直されるべき時がもう来ている。

今後は、強くなる中国と協力できる関係を築きつつ、周辺有事に日本一国で十分対応出来るだけの軍事力を持つ事で、アメリカの経済衰退シナリオに伴う太平洋地域の戦力削減に対応していかなければならない。現在米国の軍事支出は世界の半分。これを維持し続けられない事は、歴史上強大な軍事力を持つ国家はいくつも出てきたが、その国家が隆盛を誇る時代がそう長くない事を見れば分かる。

これまで、日本は戦後60年以上の長きに渡り戦争の惨禍に巻き込まれず平和を維持し、経済を大いに発展させてきた。しかし、それはアメリカの核の庇護の下達成されてきた平和。アジアの経済大国として今後、自衛隊を、憲法の曲解による運用ではなく、民意に基づく憲法の下、実質的な軍隊として積極的に運用していく事を大いに期待する。

その上で、集団的自衛権の発動の際にも国際貢献を果たし、同時にシビリアンコントロールをよりいっそう強化する。特に、災害や事故、海外における救助活動などを行う際に、迅速に動ける組織としてあってほしい。その組織の国家への貢献により、国民が敬意を持つ。これがベストではないか。

戦争から60年以上が過ぎてなお、外国に頭を垂れ続け、機能不全な自衛隊という名の軍隊に莫大な金をつぎ込む事は馬鹿らしい。田母神氏は職を辞して後、シビリアンである議員として国政の舞台に立つ事もありではないかと思う。自衛隊のことを誰より良く知る人間が、不適切な立場からではなく、違う立場から自衛隊を世間に理解させ、憲法改正の一助となって欲しいと思う。

以上


この記事を書いた人
りーぶら
りーぶら30代、都内在住、男性。

大企業に勤務するサラリーマンで、M&Aを手がけたり、世界を飛び回ったりしている。ぬるま湯に浸かって、飼い慣らされているサラリーマンが大嫌い。会社と契約関係にあるプロとしての自覚を持ち、日々ハイパフォーマンスの極みを目指している。歴史を学ぶことは未来を知ること、を掲げてしばしば世界を旅している。最近は独立して生きる力を身に付けるべく、資産運用に精を出している。好きな言葉 「人生の本舞台は常に将来に在り」

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