3月25日(日)ブラックマンデー戦記 ~貿易戦争~
3月25日(日)
我々は今、凄まじい歴史の転換点に立っている。
NYダウは2月5日に1000ドル超、3月22日-23日に再び1000ドル超下げた。1月26日のピーク26,616ドルから、2か月で既に約3,000ドルも下げている。
そんな中、トランプ大統領が貿易戦争を開始した。VIX(恐怖)指数は25ポイントまで上昇しており再び暴落が始まりそうな気配が立ち込めている。
これから起こる事1つ1つが、今後の世界の歴史を大きく左右するのは間違いない。
我々は歴史の証人としてここにいるわけだが、歴史を後から振り返るのではなく、今を生きるものとして、何が起こっているかを認めていきたい。
米国の制裁関税発動!
先日、米国が鉄鋼、アルミに対する関税を発動させた。多くの国に対して関税が課され、同盟国である日本まで含まれた事で、大変なサプライズとなった。
これに続き、2日前、中国に対して、知財関係の製品等に関税を課すことが発表された。対象となる製品等は6兆円にも及び、米国が中国に思いきり喧嘩を売った形となった。正にトランプ大統領のMake the America great again、America first、が保護主義として具現化されたのである。
保護主義の歴史
高関税をかけて自国経済を守る、というのは戦争に繋がる。歴史を紐解くと、第二次世界大戦の原因は、不況にあえぐ欧米列強各国がブロック経済を構築したことにある。
第一次世界大戦が終結した1918年以降、しばらくは世界的に景気回復が続いた。然し、この反動から1929年に米国発の世界恐慌が起こった。各国は景気回復に向けて自国の通貨の平価を切り下げる事で輸出を増やそうとしたが、これによって為替が激しく動き輸出入が益々減少していった。1929年~1933年迄の4年間で世界の貿易量は70%も減少し、失業者は世界で数千万人に上った。
そんな中、イギリスやアメリカなどの「持てる国」は本国と植民地内で完結する経済ブロックを構築し、自国の経済圏内にある産業や雇用を守ろうとした。一方、「持たざる国」である日本、ドイツ、イタリアは資源や植民地が殆ど無い中で、生き残りをかけて植民地を拡大し、自国の経済ブロックを確保しようとした。
「持てる国」と「持たざる国」の対立が深刻化した結果、第二次世界体制が起こり、世界で6000万人が犠牲となったのである。この大戦への反省から、GATTが生まれ、貿易の自由化や関税の多角化などが世界的に議論されるようになったのである(GATTはWTOへと改組されて今に至っている)。
グローバル資本主義は米国を中心に構築されてきた
第二次世界大戦以降、世界は自由貿易が加速し、先進国が発展途上国に投資し、工場なども移転していった。例えば、現在イギリスは自国にまともな産業が残っておらず、ポンド高を維持しながら輸入で食っている。そして、シティなどの金融街を育てて世界中から資金が集まるハブの役割を果たす事で、国際的な競争力を維持している。イギリスの例は海外に製造業が移転しても、一層成長できる典型的な例だろう。
このように、製造拠点を本国や自国の経済圏に置かずとも、世界的な貿易ネットワークの中で繁栄を享受するというのがグローバル資本主義の原点であり、これによって、日本や韓国は勿論のこと香港、シンガポール等も大いに繁栄してきた。
そして、繁栄した国々は儲けた金で、アメリカが発行する国債(米国債)を買い続けることで、ドルが世界の基軸通貨として機能し、アメリカを中心として世界経済が発展してきたのである。
軍産複合体と製造業者からの支持を得たいトランプ大統領
このように、世界的な貿易ネットワークの繁栄がグローバル資本主義の前提だが、トランプ大統領はここにくさびを打ってきた。中国やロシアなどの新興国が経済力を急速に高めているが、自国の産業空洞化を阻止する一手を打ってきたのである。上述の通り、保護主義は戦争に繋がりかねない危険性をはらんでいる。また、世界的な貿易量が減少することは米国にとって大きなマイナスとなりうる。
にもかかわらず、保護主義に走るのは、何より選挙において、国内製造業に関わる労働者層からの支持を得たいからである(こういった人たちは所謂米国の田舎であるテキサスの内陸などに多く住んでいる)。そして、何より産業の国内回帰は共和党の支持母体である軍産複合体からの支持が得られる。
米国は毎年60兆円以上を軍事支出として計上しており、2-10位が集まっても勝てないぐらいの圧倒的な戦力を保有している。莫大な軍事支出で軍隊を維持しているだけではなく、常に世界のどこかで戦争に関わっており、今はISISやアフガニスタンにおいて戦争を継続している。
中国が米国に反撃できない理由
トランプ大統領は支持基盤を固めたいという目的から貿易戦争を仕掛けているが、保護貿易が戦争の火種になる事は歴史的にも明らかになっている。また、保護貿易主義は米国が築いてきたグローバル資本主義そのものを破壊する行為ともいえよう。
トランプ大統領は、そんな事は間違いなくわかっているはずである。トランプ政権にとって、これまでの最大の成果は好景気に伴う株高と減税であり、仮に中国に貿易戦争を仕掛けた結果、経済が停滞し、株価が暴落すれば、国民にそっぽを向かれる可能性が高い。
よって、振り上げたこぶしを振り下ろして戦い抜く事は得策ではないだろう。
翻って、中国は貿易戦争を戦う意思を表明しているが、中国も戦った場合の痛手は大きい。習近平政権が漸く盤石化しつつあるが、国内の安定を維持できている最大の要因は経済発展である。共産党は一党独裁体制を敷いているが、10億の人民、56の民族を纏められている最大の要因は安定した経済である。
仮に米国と貿易戦争して、海外向けの輸出が減速した場合、景気が一気に冷え込む可能性があり、経済停滞は人民の不満を高めていく。一たび人民が反乱を始めれば、(中国の歴史で繰り返されてきたことだが)、政権は広い国土・膨大な人口・たくさんの民族をコントロールしきれなくなって崩壊する。故に共産党は経済停滞を非常に恐れているので、ファイティングポーズをとってはいるものの安易に喧嘩はしないだろう。
しかも、中国の米国品の輸入量は米国向け輸出の1/4程度に過ぎず、輸入品に関税を課したところで、米国の一撃に比べると弱く、まともな喧嘩にはならない。(ただ、大豆に輸入関税をかけた場合、中国が最大の輸出先となっている為、米国の農家は大ダメージを受ける為、所謂田舎を支持基盤としているトランプ政権は非常に気にかけている分野に違いない。
中国にとって、最大の経済的な対抗策は米国債の買い入れを減らし、既存の米国債を売却する、という手段である。中国は世界最大の米国債保有国であり、その資産は約130兆円に上る。
これを一斉に売却した場合、米国債は大暴落し、長期利回りが暴騰する。日本も約120兆円の米国債を保有しており、他国も多額の米国債を買わされているので、米国債が暴落するとそのダメージが一気に世界に伝播する。これに伴い、世界の株価が大暴落し世界大恐慌が発生する。
ただ、この手段はもはやメガンテ(自爆)であり、世界経済低迷で中国も壊滅的な被害を受ける為、確実に人民が反乱を起こし共産党が崩壊する為、有り得ない選択肢だろう。仮に、世界的不況を起こさずに売れたとしても、米国債の代替となる資産が存在しない。米国債を売って人民元に換金して自国に持って帰った場合、凄まじいドル安・人民元高が発生し、中国の輸出企業は完全に死滅するだろう。
結論・まとめ
新聞で貿易戦争が始まる、と大きく取り上げられ、騒ぎになっているが、本当の意味での経済停滞につながるような結論にはならないだろう。なぜならば、それは米国・中国若しくはそれ以外のあらゆる国にとって何もメリットがないからである。
しかも、先述の通り大豆に関税がかけられた場合、米国の農家が大いに反発しトランプ政権に大ダメージとなること間違いない。
よって、このお祭り騒ぎは、米国がこぶしを振り上げるスタンスを見せ、それに対する折衷案を探っていくという形で収束していき、4月中頃には株価は再び上向いていく事だろう。
さもなくば、世界は破滅への序章を歩むことになるだろう。
ご参考:NYダウの推移
約40年間右肩上がりで推移している。
以上
大企業に勤務するサラリーマンで、M&Aを手がけたり、世界を飛び回ったりしている。ぬるま湯に浸かって、飼い慣らされているサラリーマンが大嫌い。会社と契約関係にあるプロとしての自覚を持ち、日々ハイパフォーマンスの極みを目指している。歴史を学ぶことは未来を知ること、を掲げてしばしば世界を旅している。最近は独立して生きる力を身に付けるべく、資産運用に精を出している。好きな言葉 「人生の本舞台は常に将来に在り」
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