『火垂るの墓』が語り掛けてくるもの

これは、第二次世界大戦下の日本を描いた、スタジオジブリの映画、「火垂るの墓」のワンシーンである。

火垂るの墓は、海軍士官の父親を戦場で亡くし、空襲で母親を亡くした、兄と妹が、必死に生きていく姿を描き出した物語である。

いつも、この映画を見ると、何回見ても留めることなく涙があふれてくる。

父を失い、母を失い、誰もが必死に生きている戦時下において、二人で生きていく事の心細さが、あらゆるシーンを通じて伝わってくる。そして、妹を思う兄が、妹の健康を願い、妹に幸せに生きてほしいと願いながら盗みを働いたり、防空壕に住むシーンが、胸を打つ。

しかも、兄の切ない思いをまだ左程わからない妹が、時には明るく、時には不安な表情を見せながら、母を思い出しては泣いたり、これまでの生活を思い返したりする。そして、何気ない幸せに無邪気に喜ぶ姿が、自分の家族の姿を思い起こさせ、涙が止まらなくなる。

話は変わるが、昨夏、パラオ共和国を訪問した。第二次世界大戦の痕跡を求めての旅だった。青緑の海がどこまでも広がっており、正にこの世の楽園を思わされる光景だった。

同国にはペリリュー島という島があり、今回の旅ではその島を訪れた。

第二次世界大戦の激戦地となった場所で、日本軍1万余名が戦死した激戦地である。後の硫黄島に繋がる持久戦術が実行された場所であり、日本軍は洞窟に籠って徹底抗戦を展開した。

洞窟の入り口は火炎放射器によって焼け焦げた跡が生々しく残っており、洞窟内には火炎瓶として使っていたキリンビールなどの割れた瓶が散乱していた。

日本人が建てた慰霊碑には、水と雲が描かれていた。

水が描かれているのは、洞窟に籠った兵士達が激しい水不足に悩まされたからだそうだ。米軍の激しい攻撃で洞窟の外にも出れず、脱水症状で亡くなっていったが、この慰霊碑は兵士たちに沢山水を飲んでください、との思いからデザインされたそうだ。

また、雲は、ふるさとを思いながら亡くなっていった沢山の将校たちの魂が、雲に乗って日本に帰ってほしいという願いを込めたものだということだった。

私はこの話を聞いて、涙をこらえる事が出来なかった。

仮に自分の父親が、日本に妻や子供を残して、出征せねばならないとすればどれほどに苦しいだろうか。もしくは自分が妻や子供にもう二度と会えないと思いながら、水不足に苦しみ、パラオの洞窟で死んでいくとしたら、その無念さは如何ばかりだろうか。。。

火垂るの墓の最後のシーンで、死んだ妹を火葬した後、兄も栄養失調でなくなるシーンが映し出される。その背景には、沢山の高層ビルが立ち並ぶ日本が映し出される。

70年前にはこのような地獄があり、300万余の方々がなくなった。火垂るの墓に出てくるようなシーンは、戦後の日本ではどこでも見られたような光景だったのだろう。

そのような悲劇の上に、現在の豊かで平和な日本は成り立っている。祖先たちの想いと努力の結晶が今の日本の地位を築かせているのである。

だからと言って、先人たちを拝むべきとか、戦争に反対すべき、とは全く思わない。

ただ、思うのは、兄弟姉妹、家族が幸せに生きていける社会を創らねばならないという事であり、能力や信念があるものは、その社会の実現のために力を尽くさねばならないという事である。

恐らく、蛍の光に感動する人は多いが、その感動を基に、日本社会をどう良くすべきかを考える人は少ない。更に、それを自ら実行していこうと思う人は少なく、実際にやる人は殆どいないだろう。

サラリーマンの地位に安住せず、自らに出来ることを力を振り絞ってやっていきたい。言い訳せず、時間を無駄にせず、自分が感動した事を素直に受け止めて、行動に移していきたいと思う。

以上

※パラオの海に水没しているゼロ戦。


この記事を書いた人
りーぶら
りーぶら30代、都内在住、男性。

大企業に勤務するサラリーマンで、M&Aを手がけたり、世界を飛び回ったりしている。ぬるま湯に浸かって、飼い慣らされているサラリーマンが大嫌い。会社と契約関係にあるプロとしての自覚を持ち、日々ハイパフォーマンスの極みを目指している。歴史を学ぶことは未来を知ること、を掲げてしばしば世界を旅している。最近は独立して生きる力を身に付けるべく、資産運用に精を出している。好きな言葉 「人生の本舞台は常に将来に在り」

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