【坂本龍馬はベンチャー起業家では? 「社長・坂本龍馬」にみる起業のあり方」

2018年3月30日世界史の窓

今回は歴史にお詳しいN先生が是非とも執筆したい、とおっしゃっていただきましたので、坂本龍馬を新しい視点で取り上げて頂きました。

「日本の夜明けぜよッ!」というセリフを書けば「坂本龍馬かよッ!」と、ツッコミをいれるか、その名を思いうかべるかというぐらいに坂本龍馬は有名な歴史上の人物です。
さて、坂本龍馬は維新の英雄で、一介の浪人の身でありながら、薩摩、長州などの巨大な、そして対立する討幕勢力の間に入って同盟を成立させたとか―― すごい! なに、この人というくらいの傑物・英雄のイメージですね。心に正直になってください。そう思っていましたよね?

それは、歴史オタクでなければ、普通の話です。

とにかく坂本龍馬ほど、史実と現代のイメージがかけ離れた人は少ないかもしれません。
そもそも「日本の夜明けぜよッ!」の言葉すら坂本龍馬の言葉ではありません。
「鞍馬天狗」という幕末を舞台にした時代劇の主人公のセリフです。

例えば、先日ツイッターに「#歴史オタクをどこまでイライラさせられるか選手権」というタグが流れ、歴史オタクの皆さんが遊んでいました。(すいません、私もです)


(引用:ツイッター)

地上最強の生物が怒りをみせるほどに、イライラする間違いのようです。

薩長同盟成立と龍馬は無関係が今の定説です。
それ以外にも史実と現在の一般的イメージの差。圧倒!格差!
これは、司馬遼太郎の小説「竜馬がゆく」などのフィクションが一因となったのでしょう。
しかし、龍馬がもし長生きしたら。
もし、龍馬が90歳まで生きていれば(1836年生まれ)司馬遼太郎(1923年生まれ)と生きている時代が重なりました。

歴史上の人と言っても、それくらい最近の人です。

史実と現在のイメージが違うから歴史に名を残す価値がない?
NOです。全く違います。
坂本龍馬はやはり歴史に名を残すべき人物です。

ただ、評価のされかた、イメージが違うということです。
坂本龍馬は政治的存在というより、経済的な存在だったのです。
経済史の中に名を残すべき人物です。

幕末の英雄、坂本龍馬とは本当は何者だったのか?
坂本龍馬は日本初のベンチャー企業の社長です。
そもそも、企業、株式会社なるものがまだ日本には存在していない時代ですから、ベンチャーなのは当たり前ですが、江戸の既存の商人とは一線を画すビジネスマンであったのです。

そうです。
坂本龍馬は、海援隊の「社長・坂本龍馬」であり日本初のベンチャー起業家だったのです。
さて、その視点に立って、坂本龍馬という人物を見ていきましょう。

1. 坂本君、君が薩長同盟主導したの?
まず「一介の浪人の身でありながら、薩長同盟をまとめ上げた人物」という評価です。
これは、坂本龍馬に関するフィクション、小説、映画、ドラマ、漫画ありとあらゆるところで、拡散され浸透している「知識」ですよね。嘘ですけど。
なぜ、坂本社長にこんな噂がたってしまったのでしょうか。

坂本龍馬にとって、討幕に向かう薩長同盟はビジネスチャンスだった
幕末時代の歴史は複雑です。誰がなにをしているのか? 
時代の流れが分かり難く、教科書に名を残す人がいっぱいます。
受験生泣かせの時代ですよね。

そして「幕末大河ドラマで幕末テーマは視聴率がとれない」という言葉、ジンクスがありました。
幕末の時代の流れを追っかけるとエンタメとして分かり難くなることが原因ですね。
なにせ「幕末事情は複雑怪奇」ですから。ただ、2008年の大河ドラマ「篤姫」がヒットしてからは、流れは少し変わったようです。

それはそうと、「薩長同盟」というものが難しいですよね。なぜ同盟したのかとか。
ここでは、朝敵となり存亡の危機に追い込まれた長州藩と、雄藩連合による幕政改革が会津藩の画策で頓挫してしまった薩摩藩という存在がありましたと覚えてください。

「薩長同盟」の前1862年に薩英戦争で、薩摩藩はイギリスの進んだ武器の威力を知ります。
大久保や西郷は「絶対攘夷無理。薩摩藩どころか、日本はまずいんじゃないの?」という思いを抱くようになります。
一方イギリスの方も「日本は、サムライは獰猛すぎてヤバい」という感想を抱くのですが、それは関係ないです。

薩摩藩の中心となっていた大久保利通、西郷隆盛は「もう、討幕するしかない」と思うわけです。そもそも、日本を近代的中央集権国家(欧米列強と対等の条約を結べる国)としないことには、薩摩藩どころの話じゃないとうことも、思い知っているわけです。

特に記録の多く残っている大久保利通に関しては「近代日本を創ること」これが絶対の目標になります。冷酷、非情とか言われますが、彼は優れた政治家です。その非情さはその目的達成のための手段であったわけです。

そして、討幕のための手段として「薩長同盟」が成立むけ進みます。
主導したのは薩摩藩、長州藩の藩政の中心となっていた人物です。

で、坂本龍馬は「薩長同盟」でなにをしたかというと、メッセンジャーボーイです。
大久保利通の書簡を長州に届けたりしています。

武器商人グラバーとつながりのあった坂本龍馬にとって、これは大きなビジネスチャンスです。
攘夷のために、武器を売るのでは、グラバーさん、売ってくれないと思います。
薩長同盟により、坂本龍馬にとって、「討幕」という都合のいいビジネス環境ができあがってくのです。
そこに、首を突っ込み、ビジネスチャンスを逃さないように繋がりを保っていたのでしょう。
顧客の状況の変化、そのニーズに敏感にキャッチし動かねば、商売はできません。

坂本龍馬は、日本を近代化するという大久保や西郷のような政治的な動機ではなく、ビジネスの動機で動いていたのです。

2.「ビジネス環境」として天下国家を考える
坂本龍馬にとっての良い天下国家とは、商売しやすい環境、商売できる相手がいる状況なわけです。
亀山社中から海援隊を作った彼は、ビジネスマンであり、幕末の激動の中で顧客に必要とされる商品を供給していきます。

当時もっとも、お金になり、新規参入で利益を稼げそうなジャンルは――
そうです。なんといっても、新式の武器ですよね。

戦後、日本人は戦争を批判するあまり、戦争に関わる全てを蔑む傾向があります。
軍需産業、兵器の売買についてもそうですね。

しかし、当時の時代状況の中、坂本龍馬のようなビジネスを展開できる起業家が日本にいなければ、それはそれで困った状況になったと思います。
人を殺すのは銃ではなく、引き金を引く人の心なのです。
そして、幕末という時代は、現代の私たちが望もうが、望まないが関係なく、武器弾薬を必要とした時代だったのです。

日本の夜明けは商売に最適環境
薩長同盟により、討幕の動きが大きく進みます。
朝敵となった長州に、薩摩藩名義でバンバン武器を買わせることができます。
それまで、幕府が長州の武器取引を監視していたため、長州藩では、武器の購入が困難でした。
薩長の接近で新たなビジネス環境がうまれたわけです。
その機会を逃さず、坂本龍馬は、薩摩藩の西郷隆盛を動かし、長州のための武器購入資金を用意させます。
新式の銃を何千丁も買い入れ長州藩に納入します。
今の金額にすると約170億円にもなるビッグビジネスを掴んだのです。

天下の変革は商売のため
ビジネスマンにとって国家の動きは、まず「どんな商環境」がそこに生じるかという分析に直結します。
インターネットも、その他の情報開示するような機関もない時代では、世の中を動かしているキーとなる人物に接近するしかないわけです。それが、坂本龍馬にとっては、西郷であり大久保だったわけですね。
国家の政策の変化は今の時代は、概ね公表されます。たとえば2025年までに自動運転自動車を実現するとか、産業面の指針が国の機関でますし、いろいろな公共事業公募もあります。
ベンチャー企業の中にはそのような、公募案件をすばやくつかみ、利益を上げる企業があります。
IT技術の公募などは盛んに行われていますね。
このような、国家の方針は、幕末時代は「討幕」と「近代国家の建設」です。
幕府勢力を残しての近代化はありえないという考えは、大久保、西郷の中に既にあったでしょう。
坂本龍馬は、そのような天下国家の動き、つまり「討幕事業」という公共投資にいかに食い込み、利益を上げるかが目的だったのです。

もし、幕府を維持する方がお金になりそうであれば、坂本龍馬はそちらに行ったかもしれません。
まあ、幕府の方がなかなか相手にしなかったかもしれませんが、勝海舟の人脈を使いなんとか、食い込んでいったかもしれません。

集めた資金は七万両そして近代日本の企業へ
坂本龍馬が暗殺された時、彼が率いる海援隊には土佐藩から引き出した七万両のもの大金があったのです。三菱財閥の創設者である岩崎弥太郎がその七万両を預かっていました。
龍馬暗殺後は、土佐藩との間で話し合いがあり、その七万両は結局、岩崎弥太郎の物となります。

七万両の原資で三菱財閥という巨大企業群ができあがったのです。
この企業も、太平洋戦争中は盛んに軍に兵器を供給しました。
有名な零戦は三菱製です。
坂本龍馬が、動乱の中で起こしたベンチャー企業であった海援隊は、連綿と武器商人血脈も受け継ぎ、そして現在にも至っているのです。

武器や兵器というと、顔をしかめる諸兄は多いかと思います。
しかし、現実にそれがなければ、幕末から江戸時代にかけて、日本は近代化できなかったでしょう。
そして、国内での軍需産業の成功が無ければ、戦前の日本は、その地位を維持することもできないもっと貧しい国になっていたでしょう。

兵器によって、歴史が動いた。お金が儲かった。幕末に武器ベンチャー企業として大きくビジネスを動かしたのは、坂本龍馬です。あるのはその事実だけです。その商才こそ評価すべきでしょう。

2. 坂本龍馬の「世界」は商売の相手
薩摩からの資金調達し、武器の輸入が幕府に監視されている長州へ供給する。
国内情勢の変化をビジネスチャンスとしたのですが、それも仕入先のパイプがあってこそです。
坂本龍馬と、イギリスの武器商人グラバーとのパイプが威力を発揮します。
グラバーにしても幕府はお得意様ですから、討幕勢力に武器を売るのはリスキーです。史実では幕府から売掛金を回収できず、グラバー商会は倒産します。
必要以上に討幕勢力に武器を供給しすぎたというのは、後知恵の批判です。また、変な陰謀論にも結びついたりもします。

彼が、坂本龍馬に武器を供給したのは討幕勢力を助けるためだったという言説も見受けられます。
そのため、幕府が倒れ、売掛金が回収できなくともいいとさえ思っていたという推測をする人もいます。商売なめています。

もし本当なら、最低の社長ですね。
彼が商会を倒産させたせいで、職を失った人もいるでしょう。
グラバー商会と取引していたところにも損失を与えたのかもしれません。

このような計画的な悪意(同胞に対し)のある社長だったというより、普通に日本国内の内戦の先行きを読み間違えたのだと思います。だから倒産しました。見通しが甘かったのですが、その批判も後知恵にしかすぎません。どんな人間も「今」という檻の中で未来は暗幕に閉ざされているのですから。
武器商人も同じです。

このように、歴史に名尾を刻む外国人ビジネスマンですら失敗するわけですから、ことさら「世界に通用」するとか考える必要はないかもしれません。

しかし、外国人と対等に商売するため、重要なのは語学であると、龍馬は早くから見抜きます。
坂本龍馬は外国語の習得にいち早く目覚め、部下たちに英語の習得を進めさています。
龍馬の率いる海援隊は「和英通韻伊呂波便覧」という英語テキストをだしています。

今の時代も、語学が結構重要です。情報がネット上をグローバルに行き交う中、最も多くの情報を扱っている言語は英語です。

日本は、歴史上の先達が優秀すぎたため、最高学府での教育を母国語で出来る国家になってしまいました。
マスコミを中心に「途上国の大学生は英語力が抜群ですごい、それに比べて……」という主張もあります。途上国は、母国語の教材が無く、英語を覚えなければ大学教育ができない点を無視しています。
大学の学習環境を無視して日本の大学生を貶めるのは感心しません。

しかし、高等教育を受けた日本人の英語力が低いのも事実。
それが今の日本の問題のひとつであることは確かでしょう。
先達が優秀すぎて、日本は言葉の上での新たな「鎖国」を作ってしまっているのかもしれません。

日本が外国に門戸を開いた幕末と、技術革新によるグローバル化が進む現代。
時代の相似形を感じます。

起業し、ビジネスを成功させるには情報は重要です。
情報収集のツールとしての「英語」という言語。
これは今も幕末も変わらず、重要です。
龍馬の行動と考え方である人脈を作ること、情報収集の重視。
ベンチャー企業家として、今でも通用する考え方だと思います。

3. そもそも、坂本龍馬とは何者か……
そもそも、坂本龍馬の実家は才谷屋という土佐の豪商です。
坂本龍馬の家は、身分は郷士であっても、家業としては完全な商人です。
そのような環境で育った坂本龍馬が、非常に情報を重視するようになり、人とのつながりを重視するようになったのはある意味当然だったかもしれません。

龍馬の祖先になる才谷屋の初代、二代目の書き連ねた日記は今に残っています。
享保年間からの経済、社会、政治の動きを細かく記録した資料的な価値の高い物です。
「卑家月書」、「順水日記」「順水家記」の三つの文書です。非常に細かい分析がなされています。
起業家として、商人としての坂本龍馬の素養はそのような家の中であるからこそ生まれたのかもしれません。

少なくとも北辰一刀流の免許皆伝で、国の行方を憂いていた幕末の志士、英雄というフィクションの中で書かれるテンプレートのような坂本龍馬よりは、幕末という変動期のチャンスを生かし台頭した起業家であるというイメージが強くなりませんか。

龍馬の活動、そして、生まれた家の環境を見ても坂本龍馬という存在は生粋のビジネスマンで、起業家であったと言えるではないでしょうか。

4. 起業家・坂本龍馬はなぜ暗殺されたのか?
そして、坂本龍馬暗殺についてです。
日本史の中で語られる多くのミステリーのひとつですね。
真犯人は誰なのか。そしてなぜ、暗殺されなければならないのか。
多くのフィクションでも龍馬の暗殺は題材になっています。
それは、歴史ファンだけでなく、多くの人の想像力をかきたてるのではないでしょうか。

坂本龍馬の暗殺の理由(説)については多くあるのですが、その中のひとつに、武器売買に関するトラブルが原因ではなかったというものがあります。
そもそも、坂本龍馬は、幕末という時代の中では政治的に大きな存在ではなかったのです。
同時代の中ではそれほど有名人ではありませんでした。
今の龍馬の評価、知名度と当時の龍馬の評価、知名度は全く異なります。

彼を暗殺しても政治的なインパクトはなにもなさそうなのです。
そもそも、暗殺の対象になるという時点で不可解な部分があります。
その時点では、政治的な影響力はありませんから、怨恨であるのかもしれません。
中には中岡慎太郎の巻き添えだったという説もあります。政治的には彼の方が狙われる理由が大きかったのです。

目立ちすぎたベンチャーのトップが危険だと思われて、殺されたという説もあります。黒幕は会津藩といわれています。彼が商売でやとっていた浪人たちが大挙して京都にやってくるというデマに踊らされ「治安がヤバい」ということで暗殺されたという説です。

実際のところ暗殺の真相に関しては「これが濃厚か」という決め手に近い物はあるにせよ、まだ複数の説が乱立しているような状況です。新しい史料の発掘で真実が分かる日がくるかもしれません。

ただ、突出しすぎたベンチャー企業の社長が何かの勢力に狙われるということは、今の時代でもありそうなことです。暗殺まではされないでしょうが。多分。

以上


この記事を書いた人
りーぶら
りーぶら30代、都内在住、男性。

大企業に勤務するサラリーマンで、M&Aを手がけたり、世界を飛び回ったりしている。ぬるま湯に浸かって、飼い慣らされているサラリーマンが大嫌い。会社と契約関係にあるプロとしての自覚を持ち、日々ハイパフォーマンスの極みを目指している。歴史を学ぶことは未来を知ること、を掲げてしばしば世界を旅している。最近は独立して生きる力を身に付けるべく、資産運用に精を出している。好きな言葉 「人生の本舞台は常に将来に在り」

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