日産ゴーン元会長の存在が不可欠だった3つの理由と日本社会の本質的な問題とは

2018年12月20日日本の論点

日産の好業績を支えたのはゴーン前会長の経営手腕ではない、といった記事が掲載されたり、コスト削減しかしていなかったなど、これまでさんざん持ち上げてきたマスコミが手のひらを反したようにボロカス書いている。

関連リンク:Newsポストセブン「日産の好業績を支えたのはゴーン前会長の経営手腕ではない」

上記リンクの記事では大前研一氏が、ゴーン氏はコストカットしただけで、実質的には日産の技術力などに支えられたからこそ凄い業績をたたき出す事が出来たと書いている。

では、彼がいなければ日産は、今の地位を築けたのか。答えは否だろう。東京地検特捜部に挙げられて、集団リンチが始まったところで、それに乗って「やっちまえー」と騒いだり、他人事のように見過ごすのは簡単である。

また、米国の陰謀だとか、経済産業省が関与したとか、それらを探る事も話題的には面白いのかもしれないが、そんなことよりも日本人は自分が根本的に抱える問題にもっと目を向けるべきであり、世界第三位の経済大国としての役割や責任を果たし続けていく上で問題の本質を理解すべきだと思う。

そんな思いから、彼が日産にもたらした本質的な価値について以下に論じたい。

経営課題を把握し、しがらみにとらわれずメスを入れられるのは外人のみ

ゴーン氏はコストカッターとして活躍した、コストカットしかしていない、という論調の批評が世に溢れているが、会社の経営というのはそんなに簡単でシンプルなものではない。先ず混とんとした状況の中で経営課題がどこにあるのかを探り出す必要がある。

色々な人が保身、出世、などの思惑を胸に色々なことを言ってくる中で、数字と人の言葉から、本質的な問題を探り出して、問題にメスを入れる事は極めて高度な経営能力が必要となる。ただ、ここまでは人種関係なく経営能力が高い人ならば出来る。

然し、課題を見つけた後に、メスを入れようとすると、そこに人の情や思惑が介在してくる。特に、日産のような製造業は、自動車製造を頂点とした系列、下請けが膨大にぶら下がった一大事業群なので、日産が下請けの生活を支えるという側面もある。

つまり、日産が生み出す事業群がムラそのものであって、そこには高度経済成長と共に育ってきた思い出や歴史、人間的な関係があって、しがらみでがんじがらめになった世界がある。そんな世界に日本人として飛び込むと、親せき関係や日本人が日本人として思い浮かべられる、人の生活の背後にある様々な情景があるゆえに、ぶち壊す事が極めて難しい。

更に、日本人がぶち壊しに来ると、同じ日本人なのに非常な奴、というレッテルを張られて仕事が進まなくなる。そんな中、たぐいまれなる経営能力を持ったゴーン氏が「外人」として飛び込んできたので、色々なしがらみをぶち壊して系列を切ったりしながら、会社を改革出来たのである。

コスト意識のないムラをぶち壊し、非道ともいえる人事を断行できるのは外人のみ

ゴーン氏は日産が抱えている複数の工場の閉鎖などを通じて、数万人に及ぶ人員のリストラを断行した。頑張って改善活動やってます!と叫ぶ自社の社員をぶった切り、その先にある生活を見る事もなく切り捨てるのは忍びない、そう思うのが日本人だろう。これは系列を切れないというのと同じ気持ちである。

日本人は日本人にしか持てない情や、精神的なつながりから来る奥深い感情もあり、やめた人たちが行き場に困らないよう皆を雇用すべき、と思ったりする。故に非道な人事には抵抗感が一定程度ある。

だが、外国から来たゴーン氏にしてみれば、そんな気持ちは職務の遂行には邪魔でしかなく、整理すべきものを整理するのが自分の仕事と当たり前のように思ったことだろう。

日本人が、やめた人が路頭に迷う・・・と思うのは、やめた人が再就職できる環境が整っていない事を知っているから、といえる。年功序列が無くなって同一労働同一賃金とか言っている割には、辞めた人に職がないのは、業務で身につけたスキルや経験を棚卸したり、それを拾い上げて雇用する仕組みが整っていないからである。また、年功序列が無くなったとは言いつつも、いまだに大企業では年功序列がまかり通っているからである。

ゴーン氏からしてみれば、再雇用等の環境は政府や各企業が整えるべきで、その仕組みなくし資本主義経済とは言えないと思っていたことだろう。そんな前提のもと、路頭に迷う人は、それなりのスキルや実績がないから路頭に迷う、自業自得、年齢を重ねたから給料下さいなんて通らない、と思いながら人をバシバシ切ったことだろう。

この考え方自体、資本主義においては至極当然である。その当然をゴーン氏は実行し、職務を遂行しただけである。然し、なぜか日本人は資本主義経済に生きながら、社会主義的な妄想を抱えて生きており、そうはいっても守ってあげるべき・・・なんて思っているので人を切れない。

故に、外人で無ければこの改革はなし得なかったのである。

報酬体系的に日本人には許されない対価を得られるのは外人のみ

資本主義とは能力のあるものが稼ぎ、資産を持つものが一層豊かになる主義である。頑張ったもの、賢いもの、資本をうまく活用したものが稼ぐ主義、それが資本主義である。間違っても20年頑張ったら給料が倍になるなんて主義ではない。

そんな資本主義の当たり前が日本にはない。

マスコミ各社は、金の亡者、銭ゲバ、などとボロカス書いて責め立てているが、日産というグローバル企業のトップが10億円もらって何が悪いのだろうか?日本企業を世界で戦える企業に出来る人物ならば、100億円出して雇用しても安いくらいである。

それくらいに企業の経営というのは価値がある。市役所で毎日同じ書類を捌いて700万円もらう人と比較すること自体が全く間違っている。2100万円位の価値を生み出せる人の対価が700万であって、300億円の価値を生み出すならば100億円もらっていてもおかしくない。

繰り返しになるが、資本主義とは資本をうまく活用したものが稼ぐ、というものであって報酬とは能力を発揮した結果に対する対価である。実際に能力を発揮しているのだから、その報酬の一部を受け取るのは正当な権利だろう。

にもかかわらず、工場の作業員が300万円で地道に頑張っている時に・・・という議論が出てくること自体誤っている。300万円の工員はそれなりの成果を出した対価を貰っているだけであって、もっと報酬が欲しければ、職種を変えてより生み出す収益が高い仕事をせねば対価を貰う資格はない。

成果を出したら、それに準ずる報酬を貰う。そんな当たり前が出来るのは、外人しかいないだろう。

日本社会が抱える本質的な問題と提言

以上、究極的に言えば、日本人には重層的に積み重なったムラ意識があり、それにとらわれずして生きてはいけない習性がある。よって、外人を招聘して問題の修復にあたるしかない時が来る。

ここまで読んで、あー外人にしか出来ない事があるんだー。で思考停止してはならない。外人でないと解決できない、という前提を抱えてしまう社会システムが問題、なのだという事に気づかねばならない。

そして、少子高齢化が進み、社会全体を効率化しなければ生き残れない世界情勢において、そのような社会システムを抱えている事自体を深く反省し、考え方を変えていかねばならない。

資本主義の原理原則を忘れて、魔女狩りのごとく、稀代の経営者をたたきまくる日本のマスメディアや日本人の浅ましさが残念でならない。

進歩の無いものは勝つことはない、第二次世界大戦で日本史上初めての大敗北を喫して、日本はアメリカに占領されるという恥辱に塗れた。その時の悪夢を嫌というほどに叩き込まれて、高度経済成長の時代に必死に努力をして経済成長し世界トップレベルの経済大国に上り詰めた。

その成長は、日本が粘り強く働く人材など、様々な資本をうまく活用し、資本主義の概念を適度に取り入れてきた結果だろう。然し、これからは前提となる環境が変わってくる。経済が成熟し、少子高齢化が急速に進み、今後は強烈な効率化が求められる時代に突入する。そんな中で日本人の心の根底にある「ムラ社会」の発想を見直し、適切に競争原理が働く環境を創らねばならない。

(世界的に見れば)驚くほどに少ない報酬を受け取りながら、20年活躍した末に検察にパクられる国。

経済は成熟期に差し掛かっているのに、資本主義は未熟な国。

なんてレッテルを張られるのはあまりにさみしい。

優秀な人材を適切に処遇し、活躍できる社会。

横並び意識で足を引っ張りあって落としあう事の無い社会。

世界の経済大国として責任を果たせるだけの経済力を持ち、成熟した資本主義が根ざした社会。

そんな社会を実現していかねば、この国に未来は無いと思う次第である。

以上


この記事を書いた人
りーぶら
りーぶら30代、都内在住、男性。

大企業に勤務するサラリーマンで、M&Aを手がけたり、世界を飛び回ったりしている。ぬるま湯に浸かって、飼い慣らされているサラリーマンが大嫌い。会社と契約関係にあるプロとしての自覚を持ち、日々ハイパフォーマンスの極みを目指している。歴史を学ぶことは未来を知ること、を掲げてしばしば世界を旅している。最近は独立して生きる力を身に付けるべく、資産運用に精を出している。好きな言葉 「人生の本舞台は常に将来に在り」

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