カントリーロードとキングスマン ~故郷が生む孤独~

キングスマンと書いてあるので、楽しい映画の批評かと思いきや、重苦しいテーマで語る事をお許しいただきたい。映画、キングスマンを見たとき、クライマックスでカントリーロードが流れた。カントリーロードを聞きながら、故郷の事を想い出した。そして、故郷の事を想う時、いつも不安であり孤独な気持ちを感じることに気づいた。

人が最も孤独を感じるのは、ただ独りでいる時ではない

人は、群衆の中を独りで行くとき、何よりも孤独を感じるものである

故郷を出て、大都会に生きる人、また祖国を離れ海外で暮らす人。いずれの人達も、一度は群衆の中で生きる孤独さを経験したことがあるだろう。

その孤独は、家族や友と触れ合う幸せさを知るからこそ、生まれる幻である。心の奥底に、人と触れ合うことの幸せへの渇望が瞬き、その渇望が、群衆を独り行く時に、孤独さを募らせるのである。

そして、孤独さの原点は家族や友と触れ合った日々にあり、その遠い記憶の原点こそが、父母に守られ幸せな日々を過ごした、追憶の故郷であろう。

Country road take me home to the place I belong. West Virginia, mountain Moma, take me home, country road…

この歌『カントリーロード』を世界で知らない人はいない。

歌詞は「Almost heaven West Virginia」で始まる。

山が高く、空気が澄み、果てしなく広がる大地と金色の麦を抱いた農場。静かに草をはむ牛、清らかな水を湛えた湖、その水に映える青い空。そこに家族と暮らし、友と遊んだ柔らかな日々の記憶。

故郷を想うと、触れ合ってきた豊かな自然の記憶がよみがえり、その記憶も体験も、全てが美しい。そんな感情を、カントリー調の音楽にのせて歌い上げている。

この歌が、世界中で現地の言葉に訳され、そして歌い継がれているのは、メロディの素晴らしさだけではない。世界の人々が心の奥底に持っている、故郷への憧憬を歌い上げているからである。

どんな人にとっても、自分が生まれ育った場所は、故郷である。仮に、その故郷が厳しい寒さに包まれる場所であろうと、水も枯れる程に灼熱の地であろうとも、生まれ育ってきた場所は、その人の人生の原点であり、人生そのものである。

例えば、日本の田舎に住んでいれば、豊かな森と水が日々の暮らしのそばにある。

私にゆかりのある宮崎県のとある村。金柑が生る生け垣を抜けると、埃っぽい畑に、青々とした甘藷の葉が茂っているのが見える。井戸水を手でくみ上げれば、盥に注ぎ込まれる水しぶきで、涼やかさがあたり一面に広がる。足元には蟻の群れが列をなして躯を運び、乾いた地面に染み込む水が、日暮の聲のように諄々と音を立てる。

夏には蛍が飛んで茫々とした光が瞬き、月明かりに照らされた闇夜に、生命の息吹を感じさせ、秋には舞い落ちる紅葉の葉が命の儚さと輝きを教えてくれる。凍てつく寒さがやってくる冬には、雪の下で芽吹くのを待っている小さな蒼い命が、絶え間なく流れていく時の尊さを訴えかけてくる。

目にした光景、吸い込むように身体に入ってきた自然、それらすべてが故郷であって、その人の今を形作る全てとなる。

West Virginiaも、宮崎県のとある村も、想うほどに故郷への憧憬が溢れる。これらの記憶こそが、孤独の原点である。

つまるところ、孤独さとは故郷への憧憬であり、孤独でないもの全てへの渇望なのである。。。

と、堅苦しい文章を書いてきたが、キングスマンは面白かった。平たく言えばスパイアクション映画で、キングスマンという独立系のイギリスの諜報機関がカンボジアに潜伏している麻薬組織を叩き潰すというストーリー。

この麻薬組織がキングスマンを襲って壊滅させてしまうので、生き残った主人公のエグジーはアメリカのステーツマンなるウィスキー製造業を営むスパイ組織を頼り、ここと協同して麻薬組織をつぶしに行く。

英国調のスーツがパリッと決まっていて、エグジー(タロン・エガートン)が昔のレオナルドディカプリオみたいで、かっこいい。イギリス、アメリカの古き良き時代に焦点を当てつつ、最新のCGと組み合わせた映像が美しい。

映画自体もユーモアたっぷりで、アクションも只管激しく、見るものを最後まで飽きさせない。

そんな映画のクライマックス、ステーツマンの協力者が、キングスマンのメンバーの身代わりになって死ぬシーンで、カントリーロードを歌う。劇中に度々出てきた南部アメリカの映像と合わせてなんともいえぬ、人に宿る故郷への想いを掻き立てる歌だと改めて感じたゆえに、カントリーロードについて書かずにはおれなかった。

アメリカ人の魂に宿る、美しき故郷への想い、イギリスからわたってきた移民が住み着いたアメリカの大地への想いが歌に込められているようで、そんな想いをぴったりと表現したような映像が流れて実に気持ちがよかった。

普段映画を見ている暇がないので飛行機の中で見た。私は飛んでいる時に映画をつけると60%ぐらいの確立で寝るが、この映画は最初から最後まで楽しめた。100%お勧めできる一本である。

以上


この記事を書いた人
りーぶら
りーぶら30代、都内在住、男性。

大企業に勤務するサラリーマンで、M&Aを手がけたり、世界を飛び回ったりしている。ぬるま湯に浸かって、飼い慣らされているサラリーマンが大嫌い。会社と契約関係にあるプロとしての自覚を持ち、日々ハイパフォーマンスの極みを目指している。歴史を学ぶことは未来を知ること、を掲げてしばしば世界を旅している。最近は独立して生きる力を身に付けるべく、資産運用に精を出している。好きな言葉 「人生の本舞台は常に将来に在り」

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